エミール・ガレ 花瓶 オルフェウスとエウリディケ
エミール・ガレ 花瓶 オルフェウスとエウリディケ ( Émile Gallé Vase Orphée )
アールヌーヴォーを代表するガラス工芸家、エミール・ガレによる、花瓶作品です。
本作品は、1889年のパリ万博に出品された有名な作品。
竪琴の名手オルフェウスが、亡き妻エウリディケを黄泉の世界から連れ戻す物語をモチーフにしています。
幸福の絶頂に潜む不幸の影を描いています。
新婚の喜びのさなかに蛇にかまれて命を落とした妻エウリディケ。
冥界に向かったオルフェウスは、支配者ハデスに妻を返してくれるよう懇願します。
願いは叶えられまずが、「地上の光を浴びる前に、決して振り向いて妻の姿を見てはならぬ」と言うのが条件でした。
しかし、オルフェウスはこの約束を破ってしまいます。
この為、二人は再びそして永遠に引き離されてしまいます。
この作品では、まさに煤けた黒いクリスタルの中にいまにも姿を消そうとしているエウリディケとオルフェウスを冥界の煙と業火が取りまいています。
ガレのガラス工芸の技術による迫真に迫る鮮烈な表現力。
「もう振り向かないで、振り向けば私をふたたび、そして永遠に失うでしょう」の銘文が刻まれています。
この作品のオルフェウスとエウリディケの別離は、普仏戦争の敗北により、フランスからドイツ領となったアルザスとロレーヌ地方の寓意像ともなっています。
シャルル・マルタン・エミール・ガレ(1846年5月4日 – 1904年9月23日)は、アールヌーヴォーを代表するフランスのガラス工芸家です。また陶器や家具などのデザイン・アートディレクターも手掛け、父親から継いだガラス工芸・陶器・家具工場の「ガレ社」を経営する企業経営者でもありました。
ガラスの花瓶や壺、鉢や杯といった限られた空間の中で、大自然の風物と生命の営みをアールヌーヴォーに代表される装飾美と共に詩情豊かに謳い上げた作風が広く知られ、その作品の芸術性の高さは、その後のガラス工芸に及ぼした影響も大きく、今日も世界的に大きく評価されています。
また、工芸の改革者であると同時に詩や音楽に親しみ、植物の栽培や採集を通じて自然を学び、その謎を問い続けた植物学者でもありました。祖国への愛と社会正義の理想を胸に、花々や生き物たちの命の輝きとその神秘を作品に刻み続けたガレ。
一方で、アールヌーヴォー隆盛以前に持てはやされたジャポニズムや異国趣味、歴史主義などに則った作品も作り続け、新しもの好みの顧客も古いもの好みの顧客も両方大事にする経営者としてのバランスもとれた人物と言えます。