金工 大角幸枝 銀打出し花器 「海峡」
日本の金工作家、大角幸枝 (オオスミ ユキエ) による、銀製の花器です。
鳴門の渦潮にインスパイアされて創作された作品。2013年作。
風や波のように形のないものを器に託して自然の情感を表現しています。
大角幸枝は、金工芸の「鍛金」で、2015年に、国指定重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された作家です。
鍛金や彫金といった金工の分野では女性初の認定者です。
厚さ3mmの楕円形の銀板を打ち窪め、打ち上げて花器の形を作り、表面には波状の文様を打ち出し、さらに逆巻く波や渦潮を金と鉛の布目象嵌の技法で表現しています。
布目象嵌は南蛮渡りの技法で、古くから日本的な表現が試みられています。
柔らかな布目象嵌の風合いと白銀の煌めき、いぶし銀特有の渋さをマッチさせ、水墨画風の味わいを狙った作品。
鳴門の渦潮のように、銀の持つ様々な表情を巧みに組合せ、緻密で味わい深い質感を創出しています。
銀の気品ある静かな佇まいの中に、うねるような動きと繊細で精緻な美しさが表現されています。
用いられている技法は、「鍛金(たんきん)」「象嵌(ぞうがん)」「打ち出し(うちだし)」と言った技法です。
鍛金は、金属を叩き上げて形を作っていく技法。
木台の凹部の上で、板状の金属を木づちでたたいて曲げます。そのあと当金と言う色々な形の鉄の棒を木台にさし、だんだんと形を作ります。一つの作品ができあがるまでには何万回もたたきます。
作品の厚みが薄く仕上がり、軽くて丈夫。
叩いた事が分からないくらいなめらかに仕上げたり、また、叩いた跡を残す事により、味のある仕上がりにもなります。
象嵌は、金属の表面に模様を彫り別の金属を嵌めこんで、それぞれの金属の色や質感の違いによって模様を表現します。
打ち出しは、金属の板をいろいろな鏨を使って、表裏の両面から何回も打つことによって立体的な形をつくります。
出来上がった形はもり上がりが高いものと、ブローチや着物の帯どめ金具のような低いものがあります。
大角幸枝は、鍛金技法で成形した器に、布目象嵌を主とした彫金の伝統技法により、波、流水、雲、風など、形の無いものをモチーフとして自然の情感を表現する作風が特徴。
花器を始め、茶道具、書道具など伝統文化の中で使用される器物や、生活空間を演出する造形を心掛けて制作しています。
東京芸術大学出身。卒業後、鹿島一谷、関谷四郎、桂盛行と言った金工作家に師事して来ました。
人間国宝認定者。日本工芸会正会員。
[出典]ギャラリージャパン, Onishi Gallery
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