金工 中川衛 象嵌朧銀花器 「窓明」
金属の持つ質感と素材感、そしてモダンで具象的な意匠が、どこか心象風景のような印象も抱かせます。
金工における人間国宝(重要無形文化財)の「中川衛(なかがわまもる)」による花瓶作品。中川衛は、彫金の技法のひとつで、石川県に伝わる伝統工芸「加賀象嵌」の第一人者です。象嵌(ぞうがん)の象は「かたどる」、嵌は「はめる」という意味。目の前の素材に模様を「かたどり」、そこにまた別のものを「はめこむ」。それが象嵌という技術であり芸術です。
象嵌は、金属の表面に模様を彫り別の金属を嵌めこんで、それぞれの金属の色や質感のちがいによって模様を表現します。彫った線に金属を嵌める線象嵌、模様が表面からでっぱらないように嵌めた金属を平らにする平象嵌、表面より高く嵌めこんで模様に高さををつける高肉象嵌、布目に彫った部分に金属箔を嵌める布目象嵌等いろいろな技法があります。
中川衛は、大学ではデザインを学び、デザイナーとして世に出るも、数年後に金沢へ帰郷。27歳の時に加賀象嵌の魅力に触れ、それまで全く経験のなかった金工の道へと進むという異色の経歴の持ち主。
デザイナーとして活躍していた頃でしたが、そのとき石川県工業試験場で伝統工芸品作り指導担当者を募集していることを知り、自分のデザイン知識がいかせるのでは、と思い帰郷を決意。家業の農業を手伝うかたわら、工業試験場で働くことになりましたが、そこで出会ったのが、金工家・高橋介州(かいしゅう)氏でした。その作業を間近にし、手伝ううちに「自分でも象嵌をやりたい」と思うようになり、高橋氏に師事することに。高橋氏のもとで伝統的な象嵌技術を学びながら、自分ならではの技術を模索し、色調の違う金属を多用する作風を生み出した。これが加賀象嵌に新風を吹き込みました。
金属の性質を熟知し、高度な加工技術によって生まれる象嵌作品の数々。2004年には、彫金の技法で人間国宝に認定されました。
この、象嵌朧銀花器 「窓明」 は、平成20年(2008年) 第55回日本伝統工芸展での出品作。静寂な空間に差し込むやわらかな窓明りが、癒しの心象風景をモダンに表現しています。
中川衛は、人間国宝と同時に、日本工芸会正会員。現在は出身校である金沢美術工芸大学工芸科教授として後進の指導にも力を注いでいます。
[出典]公益社団法人日本工芸会, Onishi Gallery
[金工芸品関連 購入]Amazon.co.jp